第9話: 【読書】金持ち父さん貧乏父さん ~ 金持ちは自分のためにお金を働かせる ~

外は真っ暗で静まりかえっていた。車も人通りもまったくない。
僕はラーメン屋を出たところで、偶然にも魔術師ロバの落としていった本を拾ったのだ。
彼がわざと落としていった可能性も否定できない。
でもこの「魔術師ロバの所有物。触るべからず」と裏表紙の右下に書かれている汚い字を見ているとなんだか無性に腹立たしくなる。

その本のタイトルは「金持ち父さん貧乏父さん」。
以前に本屋さんで見かけた事はあったが、読んでみようという気にはならなかった本だった。

僕はその本を拾い上げて、とりあえずバッグの中にしまった。
本当にあの不思議な魔術師にまた会うことはあるんだろうかと半信半疑だったが、
彼の分のラーメン代も払ったので少しは取り戻した気にでもなりたかったのだろう。

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翌日は、金曜日だった。
夜遅く帰宅したおかげで睡眠時間が全くとれずに会社に出勤することになった。

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ねむーい。

その日は1日中、睡魔と戦いながら仕事をこなした。
そして、こういう日に限って、いつもよりヒマであった。

電話がかかってこないと集中力が続かなくなり、まぶたが重たくなってくる。
ごまかすために、最初は顔を下に向けてデスクを眺めることになる。
しばらくすると、机に向かって相づちを打っているかのように カクカクし始めるのだ。
それが収まると、追いつめられた人間がするような態度に変わっていく。
机に向かって収穫前の稲穂が首をもたげるように、机をじーっと見つめている。
すると今度はボクシングのフットワークの練習さながらにゆっくりと左右に頭を振り出す。
振り子のように正確に動いている。
右に行ったかと思えば、真ん中に戻り、そして左に向かっていく。
これを繰り返すのだ。ボクシングの練習が終わると、冬眠する熊のように静かになる。
しかしこれは長く続かない。そしてクライマックスは訪れる。
自分の中では、夢を見ているんだろう。しかも、必ずどこかから落ちる夢が多い。
一生懸命踏ん張ろうとするせいか、現実の世界では、地響きでも起こす勢いで足から全身を使って、ビクッと体をうねらせてしまうのだ。
たいていの場合机に足をぶつけて、周りに気がつかれてしまう。

この日は、運が悪いことに、上司にばっちりと一部始終を目撃されてしまい、タバコ部屋に呼び出されてこっぴどく叱られた。

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あ~ついてなかったな今日は。 何もかもがうまくいかない。

帰りの電車のなかで、僕は昨晩ラーメン屋での会話について思い出していた。

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あの魔術師は結局どんな魔法が使えるのか教えてくれなかったけど、なんだったんだろう。 また彼に会えるのかな。

そんなことを考えていたら、昨日拾ったの落とし物のことを思い出した。
カバンに入れっぱなしだったので、取り出してページを開いてみた。

金持ち父さん貧乏父さん

金持ち父さん貧乏父さん

  • 作者: ロバートキヨサキ,シャロン・レクター(公認会計士),白根美保子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2000/11/09
  • メディア: 単行本
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著者はロバート・キヨサキといって日系ハワイ人だそうだ。
お金持ちとして成功している資産家・実業家。
本のタイトルにもなっている金持ち父さんとは彼の実の父ではなく友人の父のことを指していて、貧乏父さんが彼の実の父のことを言っている。
「貧乏父さん」は立派な父親で、高い教育を受け、成績優秀で博士号までもっていた。ハワイ州の教育局長まで登りつめ、かなりの高給取りだった。しかし、死ぬまでお金に苦労して家族に残したのは生命保険金と未払いの請求書だけだった。
「金持ち父さん」は真逆の立場にいた人で、高校も卒業せずにドロップアウトし、どの会社にも雇ってもらえるような学歴や経歴はなかったが、亡くなる前には、ハワイでも有数の金持ちとなり、莫大な遺産と慈善事業に多額のお金を寄付していた。
この金持ち父さんからの教えがこの本には書かれている。

いつの間にか、本の内容に夢中になっていた。
気づいた時は、電車は終着駅に着いていた。(乗り過ごしてはいない。ここが僕の最寄り駅だ。)

駅の改札を出たとき、僕はニヤニヤしていた。
この本の中に、何か希望の光を見たような気がしたのだ。

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翌日は土曜日で会社はお休み。
どこにも行かず家にこもっていたので、「金持ち父さん貧乏父さん」の続きを読み始めた。
朝から読み始め、昼食を挟んで、また読書に戻り日が暮れる前にはすべて読み終えてしまった。

この本を読んで、お金と仕事について考えさせられた。
お金は汚いもので諸悪の根元であると教えられてきたから、最初、この本に書いてあることには抵抗があった。

いくつか心に残った言葉は、

中流以下の人間はお金のために働く。金持ちは自分のためにお金を働かせる。

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お金に働いてもらう。お金を擬人化しているとことがユニークでおもしろかった。 人間が労働出来る時間は限られている。 24時間働けますか?なんてCMが昔やってたけど、 働けねーよ。


リゲイン

資産とは、あなたのポケットにお金を入れてくれるもののこと。 負債とは、あなたのポケットからお金を奪っていくもののこと。

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この言葉は納得。資産と負債の定義だ。 これはシンプルで分かりやすい。 持ち家は負債だって。 これは前から思っていたことだ。 地価が上がっていてインフレの世の中だったら、家を買うのも悪くないが、今の日本で家を買えば、間違いなく入居した時点で大損することになる。都心の一部を除けば、値上がりしているところなんてなし。ましてや地震大国なんだから。 アベノミクスがきっかけでインフレがうまく始まってくれれば、家の購入を考えてもいいが、今のタイミングではとてもとても。 まー立派に稼げるようになってから悩むべきことなんだけどね。契約社員なんて続けてたら、ローンも組んでくれないかと、ちょっと悲観的になってしまう。

ごく普通の人々が第一にやるべきことは、お金に関して賢くなることです。そのためにはファイナンシヤル教育が必要です。具体的に言うと、お金にまつわる専門用語を学び、正確に使いこなせるようになること。そして、不況下でもチャンスをつかむのは可能だということを理解しておきましょう。

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お金に関するIQを高めるということだ。 この本を読んで学べたことは、お金は悪ではないということ。 悪い物のように扱うから、お金に嫌われて逃げて行かれる。 よく母親にお金を触ったあとは、汚いから絶対に手を洗うことと教えられてきた。 どんな人間が触ってきたか分からないからという理由だったが、ここまで潔癖にならなくても。

そんな母親もお金に苦労している。お金に翻弄されている実の父と母について思い出した。

実家の経済状態はバブル崩壊後の日本にあわせて落ち込んでいった。 父親は、僕が高校生の時に勤めていた会社を自主退社した。 その後、フリーランスとして家で働き始め、経済状態は安定しているように見えた。 しかし段々と仕事もなくなり、今まで経験したことのなかった部品を組み立てる内職作業のような仕事もしなければならなくなった。 母親も工場で働きはじめ、夜勤までして必死に家計を支えていた。 住宅ローンが払えなくなり家を差し押さえされる恐怖が彼女を後押ししたのかもしれない。 バブル期に購入した地方の一軒家は買値の半分にも満たない価値になっているのにもかかわらず、支払わなければならないローンはディスカウントされないし、待ってくれない。

海外でずっと暮らしていた僕は、日本に帰ってきてこの話を聞かされて驚いたものだった。 僕も必死に外国で働きながら学生をしていた。 しかし授業料の大半は仕送りしてもらっていたので、この話を聞いたときは申し訳ない気持ちになった。

こんな近くにお金に翻弄されている人がいるんだから、世の中にはどれだけ多くの人たちがお金に困っているのだろうか。 しかし理解できないのは、何で人間はローンしてまで家を買うんだろう。 ましてや、車、電化製品など、そんなものにローン払いで買う理由は分からない。 お金足りないんだったら、貯まるまで我慢したらいいのに。と不思議に思う。 節税対策なんて良く聞くけど、銀行に払う利子、修繕費、固定資産税、保険、景気、地価の下落、自然災害、政治リスク、地政学的リスク、雇用状況の変化、デフレーション等は考慮されているのか。 どうしてもこの本で触れられている資産と負債の定義について考えてしまう。 「持ち家」族にはなかなか受け入れられないんだろうけど…

いろいろ人には意見があると思うが、僕はこの本を読んで本当に良かった。 自分の中で押さえ込んでいた感情が解き放たれたようにも思えた。 目から鱗とはまさにこのことだ。

あの魔術師に感謝せねばならない。

次の週末、僕は図書館に行き、お金についての本を片っ端から借りてきて読みふけった。 そしてこう思った。

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なんか始めよう。お金の専門家がいいかもなー。それだったらファイナンシャルプランナーの資格しかないでしょー。確か魔術師もいってたよね、まず情熱を燃やせる夢を探しなさいと。

TO BE CONTINUED=>