第10話: 魔術師ロバ再び現る ~呪いをかけたんじゃ~

僕は魔術師が落としていった「金持ち父さん貧乏父さん」をすべて読んでしまった。
久しぶりに時間を忘れてしまうほど読書に没頭した。

お金に対して素直になっていいんだということ。
大切なことを気づかせてくれた。

僕は数日後、インターネットからファイナンシャルプランナー2級/AFPの通信講座を申し込みを済ませた。

FP(ファイナンシャルプランナー)に興味をもった理由は次のとおりだ。
* お金に興味を持つことは悪いことではないということに気づけたので、欲望のままになれた。
* お金に翻弄されるのではなく、お金ををコントロールするほうになりたかった。
* ファイナンシャルIQ鍛えることによって、現状を打破したかった。
* 仕事で銀行のシステムをサポートしているので、金融関連の知識がプラスになると思った。

何か新しいことを始めるときはいつも楽しみだ。
勉強であっても、その気持ちは変わらない。

その週は教材が届くのを首を長くして待っていた。
郵送で最短三日で届くということだったのだ。

その日は会社に出勤して、いつものように何とか乗り切って家路についた。
教材が届いていることは、すでに妻から知らされていた。
最寄り駅に到着するとワクワクしている気持ちを押さえきれずに、小走りで家に向かっていた。
歩道橋を渡り公園の入り口にさしかかったところで、暗がりから不意に声をかける男がいた。

ゲムの写真
うわ。

僕は驚き、転びそうになった。
体勢を立て直し、声のするほうに目を向けた。
目の前には見覚えのある男の姿が。
あの魔術師が立っているではないか。

ロバの写真
まいどー。元気じゃったか?
ゲムの写真
まいどっていわれても… 毎回登場が怪しすぎる。
ロバの写真
名前なんといったっけ?
ゲムの写真
ゲムちゃんですけど。
ロバの写真
そうじゃった、そうじゃった。元気しておったか?ところでなー、ワシがここにいる理由は落とし物を探しに戻ってきたんじゃ。

僕はすぐにその落とし物が「金持ち父さん貧乏父さん」の本であることに気がついた。

ゲムの写真
それってもしかして、ロバートキヨサキの本?
ロバの写真
そう、それじゃ。それを探しているんじゃ。もしかして拾ってくれたのかね?

僕は意地悪そうに答えた。

ゲムの写真
あの夜、ラーメン屋の前で拾ったんだよ。
ロバの写真
いやー、それは良かった。キミに拾われていたとは。あれは僕の宝物で、いつも持ち歩いては読み返しているんだ。
ゲムの写真
実は勝手に読ませてもらったんだけど、なかなかいい本だよね。

それを聞いた魔術師は、血相をかえてこう言った。

ロバの写真
キミはあの本を読んでしまったのかね?
ゲムの写真
はい。なにかわるーございましたでしょうか?

今度は目を大きく見開き、感情的になってこう言った。

ロバの写真
キミは裏表紙を見なかったのか? 裏表紙になんて書いてあった?

僕が裏表紙に書いてあった言葉を忘れるはずがない。
あれを見て無性にむしゃくしゃしたからだ。

ゲムの写真
見ましたよ。もちろん、「魔術師ロバの所有物。触れるべからず」と書いてあったけど。

ますます怒りを増した表情でこう言った。

ロバの写真
それでもキミは読んだのか?

僕は反論した。

ゲムの写真
いや触るなとは書いてあったけど、僕が拾ってなかったらラーメン屋のオヤジがゴミ箱に捨ててただろうし。そもそも読むなとは一言も書かれていないじゃないでしょーが。

魔術師は納得できない口調でこうつづけた。

ロバの写真
んーーーーー。ごめんなさい。ワシがわるーござんした。
ゲムの写真
いい歳にもなって逆ギレはやめてくれないですか?

すると魔術師は僕の顔の前で人差し指を左右に振って、こう言った。

ロバの写真
キレてないっすよ。

逆境?それ、チャンスだよ

逆境?それ、チャンスだよ

ゲムの写真
(古いなーこのおっさん。何年前のネタやってんだか。)

僕はカバンの中に入れてあった「金持ち父さん貧乏父さん」の本を取り出し、魔術師に返した。
魔術師は嬉しそうにしていた。

ロバの写真
ありがとう。本当にありがとう。

僕は本を読んだあと自分の心境に変化があったことを伝えた。
そしてファイナンシャルプランナーの資格試験の勉強を始めることを知らせると、少しびっくりした顔でこう言った。

ロバの写真
あれ結構むずかしいんじゃないの?
ゲムの写真
まだ分からないんだけど、簡単ではないと思う。いろいろ調べてみて分かってきたことは「一粒で2度おいしい」試験みたいなんだ。
ロバの写真
それじゃ自分、アーモンドグリコやないか。


【なつかCM】 グリコ アーモンドチョコレート 渡辺徹

僕はそれをさりげなくスルーした。

ゲムの写真
一つの試験に合格すると国家資格である「2級FP技能士」と民間資格である「AFP(Affiliated Financial Planner)」が取得できるという意味なんです。
ロバの写真
へーー。んで、なんで2級なの?

僕はバカにされたと思って、ムスッとした声で答えた。

ゲムの写真
1級もあるけど、実務経験が必要なので諦めたんです。
ロバの写真
たしかに実務経験は大切やな… それで、どんな勉強しなきゃいけないの?
ゲムの写真
まだ始めてないから分からないけど、カリキュラムを確認する限り、多岐にわたっているようです。社会保険、年金、住宅ローン、生命保険、損害保険、預貯金、債権、株、投資信託、所得税、法人税、消費税、不動産、相続、贈与、各種法令、税金。
ロバの写真
いやー。なんか楽しそうだね。まだまだ若いんだからしっかり勉強していれば良いことあるんじゃない。

魔術師はプーマのロゴのはいったショルダーバックから、ながーいパイプを取り出し、吹かし始めた。

ロバの写真
一つ質問していい?前から思っていたんだけど、あのTVとか雑誌で見かける経済評論家やファイナンシャルプランナーという人たち。金融マーケットの動きだとか、人のお金の使い方をアレコレと意見するだけで、あの人たちって微妙じゃない?正論言ってるだけだよね? どうしても本当のお金持ちには見えないなー。
ゲムの写真
そうかもね。でも僕は別にああいう人たちみたいになりたくてFP資格を勉強するわけではないから。何が待っているか分からないけど、とにかく自分の思いに素直になりたいだけなんだ。
ロバの写真
まー勉強する事に損はないと思うよ。一旦資格を取得してしまえば、周りの人たちはキミの事を違った目で見ると思うよ。「はったり」っていうのかな、人を信用させる何かだよね。まー、がんばってや。
ゲムの写真
そうそう、その教材が今日届いたんで、今から家にかえって見るのが楽しみなんだー。じゃー、今晩はこれくらいで、おいとまします。

そう言うと、魔術師は困った顔をしてこう言った。

ロバの写真
もう帰っちゃうの?もうちょっと付き合ってくれてもいいじゃん。実は、キミに言っておかなければならないことがあるんじゃ。
ゲムの写真
えっ?突然なに?
ロバの写真
キミには本を拾ってくれたお礼をしたい。あとこれは言いづらいことなのじゃが、「触れるべからず」の言葉を守らなかったので、呪いをかけなきゃならなくなってしまったんじゃ。

僕は魔術師の言葉にいろいろな意味で驚いた。

ゲムの写真
拾って保管しておいてあげたのに、呪いっておかしくない?
ロバの写真
まー呪いっていっても、今回は軽くしておくよ。キミの主張も分かるからね。 まずお礼は、ファイナンシャルプランナーの試験が合格したらあげるよ。一緒にお祝いしよう。あと、呪いなんじゃが…

魔術師は吸っていたパイプを夜空に向かって高々と掲げた。
一筋の閃光が星の輝く夜空を切り裂き、耳をつんざく雷鳴で僕はとっさに右手で顔を覆い隠した。

おそるおそるあたりを見回すと、魔術師がパイプを掲げて立っていた。
パイプの先は紫色の光で輝いていた。

次の瞬間、魔術師がそのパイプを僕に向けて振りかざしてきた。
パイプの先の紫色の光はレーザーとなり、僕のズボンのポケットに照射された。

僕はポケットを見ると、中で家の鍵が光っていた。

魔術師のほうを見ると、パイプの先の紫色の光は消えていた。
何事もなかったかのように、僕を見て微笑んでいた。
僕は魔術師にこうたずねた。

ゲムの写真
いったいぜんたい何したの?
ロバの写真
呪いをかけたんじゃ。家の鍵をスキャンしただけじゃ。
ゲムの写真
はーー?スキャンって何?

魔術師は穏やかな表情でこう言った。

ロバの写真
合い鍵じゃ。これからキミの家に居候させてもらうからな。
ゲムの写真
えー?居候?
ロバの写真
呪いじゃ。これは我が家の先祖代々伝わってきた呪いなんじゃ。ワシも面倒なんで、本当はやりたくないんじゃが、従わねばならぬ。キミとは少しの間、一緒に生活することになるぞ。

それを聞いた僕はこの老人の頭を、とんがり帽子の上から平手打ちした。
軽いツッコミ程度の平手打ちだったが、かなり効果的だった。

魔術師はオロオロし始めて、本音を語り出した。

ロバの写真
ひええええーーーー。たすけてくだせー。本当の事を話します。話すから許してください。実はワシの魔法のほうきが故障してしまい、魔界に戻れなくなってしまったんです。ここ数日は公園で寝泊まりしたんですが、警察に目をつけられてしまって。
ゲムの写真
(警察怖がってるの?この人、本当に魔術師か?)

そんなこんなで、魔術師が家についてくることになってしまった。

TO BE CONTINUED=>